高横須賀町の民話

源太郎狐

むかし、高横須賀村にひとり暮らしの男が住んでいました。名前を松五郎さんといい、松の茂っている山で「ご」をかいてきては、村人に売って暮らしをたてていました。「ご」というのは、松の落ち葉のことで、熊手で根気よくかき集めてくると良いたきつけになるのでした。
ある日、松五郎さんは、中ノ池の奥にある松山で「ご」をかいていましたが、なかなか思うように集まりません。
「やれやれ、思ったより『ご』が少のうて、骨が折れるわい。どれここらで弁当にするか。」
と、松の枝にぶら下げておいた弁当の包みを下ろして広げようとしますと、すぐ前へ狐の親子が現れ、ちょこんと座りました。よく見ると親狐のほうは、人を化かすことで有名な源太郎狐です。
「だめだめ、弁当はやれんぞ。」
といって、小石を拾うと、狐めがけて投げつけました。ちょうどそれが子狐のほうに当たり、子狐は、
「キャーン、キャーン。」
と鳴きながら、源太郎狐といっしょに逃げていきました。
「まっぴるまから化かそうたって、そうはいかんぞ。どれ、源太郎のやつにじゃまされんうちに、ちゃっと弁当を食わんと・・・・・・。」
ひとり言をいいながら、松五郎さんは、にぎりめしを一つつかんで、ひょいと顔を上げますと、遠くの方で真黒い煙がもうもうと上がっているのが目に入りました。立ち上がってよく見ますと、それは村の方角で、赤い火柱さえちらちらと見えるではありませんか。
「や、や、火事だ!」
どうやら火は松五郎さんの家の近くのようです。
あわてた松五郎さんは弁当も「ご」もほっといて、一目散に走って村に帰ってきました。しかし、どうしたことでしょう。家に着いてみますと、自分の家はちゃんと建っているし、あたりは静かで、何事もありません。
松五郎さんは、肩で息をしながら、ぼうぜんとして立ったままあたりを見回していますと、通りかかった村人が不思議そうにたずねました。
「松五郎さ、どうしただ。汗をぎょうさんかいて・・・・・・。」
「顔さ真っ青だぜ。何かあっただかや。」
松五郎さんは、それでやっと我にかえりました。そして、急にはずかしくなり、
「うん、いま、ちょっと・・・・・・。」
といいかけ、すぐに、
「何もないさ。」
といって、また山の方へもどっていきました。
山へもどってみますと、せっかく集めた「ご」は、元のようにあたり一面にまき散らされています。松の木の根元に置いておいた弁当は、あとかたもなく消えていました。
「やられたか・・・・・・。」
松五郎さんは、源次郎狐にまんまとかたきをとられたことに気づきました。
松五郎さんは、年をとって山へ行けなくなってからも、村の子どもたちを集めては、おもしろおかしくこの話を聞かしたそうです。