平洲塾188 落語の"うまや火事"の原点は論語です(下)
「焼き物好きの隠居がいた」
「ご自分のことでしょう?」
「いや、わしにはそんな才覚はない。ひときわ大切にしている皿があって、客がくると自慢してみせていた。ある日、客が帰ったあと、お手伝いさんに皿を渡して、『大切な皿だから二階の箱に戻しておくれ』と頼んだ」
「それで?」
「お手伝いさんは階段を登りかけた。ところが大事な皿を持って緊張していたので、滑ってしまった」
「ソソッかしい人ね。で皿は?」
「粉々に割れた」
「まあ、それで?」
「主人は皿のことなンかきかない。お手伝いさんに、おまえはケガはないかい、ときいた。ありませんと答えると、よかったね、皿なンかまた買えるから心配しなくていい、といって割れた皿を片づけさせた」
「いいご主人ですね」
「うむ。お前さんもこれを試してごらん。あのグウタラ亭主に何か大事にしている物があるかい?」
「あります。ツボです。夜店で買ってきた」
「それを割ってごらん。そしてきいてごらん。おまえさんとツボのどっちが大事かを」
お崎は感心した。さすが大家だと思った。ダテに大家をやっているンじゃないと思った。
「大家さん、ありがとう。いいことを教えられました。帰ってさっそく試してみます」
と家に戻りました。亭主はいつも通り酒をのんでいました。お崎はツボをとりあげました。亭主はビックりし、
「そのツボにさわるンじゃねえ。割れたらどうするンだ?」
と声をあげました。きかずにお崎はポンポンとツボを宙でマリのように撞〈つ〉きました。亭主は真っ青になりました。
「危ねえよ! やめろってんだ!」
お崎はやめません。ツボはお崎がうけとめられず下に落ちて粉々に割れてしまいました。亭主がスッとんできました。そしてお崎を抱いてききました。
「大丈夫か? 手にケガをしてねえか?」
お崎は天に舞い上がるような幸福感をおぼえました。
「うれしいねぇ。そんなにあたしのことを心配してくれるのか?」
「あたりめえだ。もしもおまえがケガをして、髪結いができなくなったら、オレも働かねえで酒がのめなくなる」
最後の亭主のセリフが、この話のオチ(サゲ)です。
聴衆はドッと湧き、万雷の拍手を送りました。平洲先生も惜しまずに拍手しました。しかしそれは話術に対してであって話の内容に対してではありません。このオチの通りに推移するならお崎たち夫婦はロクなことになりません。
- お崎は絶望的になる。この亭主は底の底までくさっていて、あたしに対する愛情はカケラもない。
- 結局は自分のことしか考えないエゴイストで、あたしを利用するだけだ。
- 大家さんのせっかくの好意だけど、もうたくさんだ、別れて自分らしく生きて行こう、とめざめた女性になる。
ということです。
しかし平洲先生はやさしい。先生は登場人物の中で大家さんに同情しています。だから大家さんの善意を生かしたい。がどうすればいいか。
(それを考え出すのが学者の役目だ)と思っています。では平洲先生はどういう方法でこの問題に関与するのでしょうか? つぎの機会にご披露します。
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