平洲塾187 落語の"うまや火事"の原点は論語です(上)

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ページ番号1004510  更新日 2023年2月20日

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話術の勉強に両国橋に出かけた平洲先生は、まず落語家の前に立ちました。落語を選んだ理由は、

  • 主人公が庶民であること
  • その多くが人は好いが知能的に欠けるところがあること
  • そのためまわりからバカにされること
  • でもそのバカにされかたは、愛されかたのウラ返しであって、決して憎まれていないこと

などです。

その日、落語家は"うまや火事"を演〈や〉っていました。平洲先生も一通り落語の知識はありますが今まで身にしみて聞いたことはありません。今日は自分の仕事に結びつけるのですから真剣です。全くの予備知識を捨てて耳を立てました。

"うまや火事"の話は実は『論語』の中にある話で、平洲先生もそのことは知っていましたが、落語でどう扱われているのかまでは知りませんでした。

主人公は髪結いの女性とその亭主、そして大家(家主)の3人です。亭主はグウタラで働かずに妻のかせぎをアテにし、昼間から酒をのんでくらしています。そんな亭主にお崎〈おさき〉(妻の名です)はついにキレました。大家のところに駆けこんで、「もうがまんできないから、別れさせてほしい」と泣きつきました。大家は仲人〈なこうど〉だったのです。

「おまえのいうことはもっともだ。あんなグウタラ亭主とはさっさと別れろ」と大家も同調します。が、「でもな」といって話の方向をかえます。「むかしモロコシ(古代中国)にな」と別の話をします。

「トウモロコシですか? あたし大好き」とお崎は応じます。このへんは客の笑いをとる庶民の無知識ぶりです。

(わしにも演〈や〉れるかな?)平洲先生はそう思ってひとりで苦笑します。もちろんやる気です。

「食べ物のモロコシじゃない。お隣りの国の古い呼び名だ。そのモロコシに孔子というエラい学者先生がおられた」

「コウシなら毎日雑巾〈ぞうきん〉で磨いています」

「その格子じゃない。最後まで黙ってききなさい」

「ハイハイ。で、コウシ先生がどうされました?」

「お勤めに出ているときに家のうま屋が焼けたという知らせがきた」

このへんは『論語』に書いてある通りなので平洲先生も微笑んでうなずきました。落語家も先生の存在を意識していたので、うれしそうに目で謝意を示し、話を続けました。

「孔子先生は、そのうま屋で白い名馬を飼っていた。ところが孔子先生は知らせに来た者に、馬のことはたずねずに、馬の世話をしている働き手が無事かどうかをお聞きになった。無事だと聞いてはじめて『馬は?』といわれた。つまり、心配する順序が使用人からなのだな。有名な話だ。もう一つ…」

お崎の反応がにぶいので大家はガラリと話しを変えました。 (つづく)

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