平洲塾199 今度の話は落語の芝浜 人見弥右衛門と平洲先生(1)
平洲先生のことば(11) ~言われたかも知れないことを含めて~
人は善なり
人見弥右衛門が細井平洲先生にききました。
「足助〈あすけ〉(平洲先生のつぎの講演地)でのお話は、ご様子から察すると落語ですね?」
「そうです」
平洲先生は笑ってうなづいた。
弥右衛門は「またどうして?」という表情をした。平洲先生は答えた。
「前回"厩火事〈うまやかじ〉"の話をしたあと、土地の少女から手紙がきました。平洲先生の落語は楽しいのでまたお願いしますと。ほかの話でそこまで手が回らなかったので、約束を果たしたいのです」
「でも、場所が足助ですよ」
「藩が駕籠〈かご〉を用意してくれましたので、少女を乗せて行きます」
「おやさしい。演題は、"芝浜〈しばはま〉"でしたか?」
「そうです。きれいな夫婦愛の美談にします」
「でも、あれは江戸の芝浦の話でしょう?」
「それを知多半島の野間〈のま〉(知多郡美浜町)の話にします」
「えっ? それはまた。あそこは悪い奴がいて、源氏の御大〈おんたい〉義朝公〈よしともこう〉も弑〈しい〉された(殺された)所でしょう?」
「そうです。その悪評がまだ残っていて、そこから送られてくる塩の量にゴマカシがあるなどといううわさばかり話されています」
「その通りです。ですから悪評を消したいのです」
話がみえない。弥右衛門は首を傾けた。平洲先生は微笑〈ほほえ〉んで説明した。
・「芝浜」はもともとは漁師夫婦の話だ。
・勤勉な夫がある朝、浜で財布を拾う。大金が入っている。「これでもう朝早くから働かずにすむ」といって妻に渡す。
・夜になって一杯やりながら、「けさ拾った金は?」ときく。妻はトボケて、「何のことさ?」と相手にしない。
・ここでヤリトリがあって、夫はたしかに渡したという。妻はそんな物は受けとらない、お前さんは夢を見ているのだ、 と突っぱる。
・結局は妻が勝ってこの話は夫が夢をみたことになる。
・夫は精を出してまじめに働く。
「この時、疑惑をうけた塩の量をキチンと正しいものにするのです」。平洲先生が言葉をはさんだ。弥右衛門は、ポンと膝をたたいた。
「なるほど、うまい構成です」
「私はあの風評はどこからか出た "為にするもの" と信じていません。この半島にそんな人はいません」
「先生は"人は善なり"の孟子〈もうし〉の性善説の信奉者ですから」
「そうです」
つづく
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