平洲塾214 再考 細井平洲先生 第2回

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ページ番号1009906  更新日 2025年3月24日

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広がっていった名君・松平定信の噂

偉かった定信

 一橋治済〈はるさだ〉と田沼意次の陰謀によって松平定信は、将軍の座に就くことができなくなっていました。しかし、定信が偉かったのは、そういう裏のことを全部掴んでおり、犠牲にされたことも分かっていましたが、だからと言って、
「治済様や幕府に報復をしようと考えていない。自分は小さいときから、父の厳しい儒教教育を受けてきた。そして、人間としてやらなきゃいけないことは、孔子や孟子の教えから学んできた。だから人の道に外れるような報復ではなく、一旦決まった以上は白河藩主として思い通り孔孟の教えに従った政策を実行していくのだ」
と決めたことです。
 

老人の日と南湖の利用

 そして、彼が最初に手をつけたのは、老人の日の制定です。それも、現在のように年に一度ではなくて、毎月日を決めて、年寄りたち――今でいうと後期高齢者――を城に呼んでご馳走して、藩政に対して忌憚のない意見を話してほしいと頼みました。
「お殿様、そんな大それたことは我々にはできません、何の知恵もありませんから」
と、戸惑う、老人たちに定信は、答えます。
「あなた方は、我々若者にない、経験という知恵を持っておられる。その経験から藩政を見たとき、こうした方がいいとか、新しくこういうこともしてもらいたい、ということがあるはずだ。私の祖父の八代将軍は、災難のときの備蓄用の食料とか雑貨とかを普段から貯めておかなきゃいけないと言って、地域に社倉という備蓄倉庫を作った。真似をしたいと思って調べたところが、ここには、農業用水を引くための水がなく、十分なコメが作れる田んぼがない。用水に適した湖か沼を知っている者はいないか」
「はい。ありますよ」と手があがりました。
「どこにあるんだ」
「お城のちょっと先に南湖という沼があります。ここの水は、泉のように絶えることなく、また質が大変良い。我々も百姓ですから、これをお城の方で農業用水に使えば、さぞかしうまい米ができるだろうなと、話をしたことがあります。今お話の出た八代将軍吉宗様があちこちの地域に社倉というのを作り、普段から備蓄していることは知っておりました。ここにもそういうものができたらいいなとみんなと話し合って、南湖を推薦いたします」
「ありがとう。それがお前たちに頼んだ経験からくる知恵だ。南湖を早速、農業用水用の源泉というか、ため池として使おう」
すると、別の年寄りが、「殿様」と手を挙げて、
「南湖を、お城が経営する公園にしていただけませんか。今は、春は桜の名所となってますが、その後に続くツツジとか藤とか、あるいは秋の紅葉とか、こういう四季おりおりに住人が楽しめる植物を植えていただければこんな嬉しいことはございません」
「そうか。城が経営する公園か、日本で初めてだな。わかった」
「南湖を農業用水に使うことと一緒に、南湖を公園にしよう。約束するぞ」
 

「自分よし、相手よし、世間よし」の施策

「殿様、まだあります」と別の老人がいう。
「うちの婿は、腕の良い植木職人でございます。ただあまり仕事がないんで、今、失業をしています。どうかその南湖を公園にするときの工事に使ってやってくれませんか」
「失業救済だな。わかった」
「農業用水、日本で初めての公立公園、しかも公園の工事で、この国の失業者を救済する――近江国に、三ついいことを言った商人の言葉があったな」
「ございますよ。三方よし。自分よし、相手よし、世間よしと、こういうことでございましょう。南湖を利用することによっては、三つだけではなくて、四つも五つも良いことが行なえるようになります」
「今日は良かったな。ご馳走になった上に、こんな美味しいお話をいろいろいただいちゃって」
こういうことを、毎月やりますから、定信の名君の噂が、どんどん広がっていったわけです。 (つづく)

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