平洲塾165 ブレーン学者の特性(1)

Xでポスト
フェイスブックでシェア
ラインでシェア

ページ番号1004533  更新日 2023年2月20日

印刷大きな文字で印刷

忠臣蔵は塩の争い

江戸時代は、各地方に「藩」があって、自活的な生き方をしていました。「藩」というのは、「境」あるいは「垣根」の意味です。

ですから、各藩はこの解釈を守り、今でいえば生産物については特に、「企業秘密」を持っていました。有名な忠臣蔵事件にしても、わたしはその原因を、「生産する塩の争い」だと思っています。有名な塩の生産地は、赤穂〈あこう〉(兵庫県)や吉良〈きら〉(愛知県)などでした。しかし、何といっても赤穂の塩が全国的に有名で、特に将軍への献上物として喜ばれていました。ですから、赤穂からの塩を献上された将軍が、吉良上野介〈きらこうずけのすけ〉を呼んで、「おまえのところの塩は、色が悪いし味も悪い。たまには、赤穂の浅野に作り方を教えてもらったらどうだ?」などとからかい半分に言います。老年の吉良上野介は、これを本気にして赤穂の藩主浅野長矩〈ながのり〉に、「浅野さん、おたくの塩は上様(将軍)もおほめになるほど色が白く、味もよい。たまには、わしにもその製法を教えてもらえまいか」と持ちかけます。しかし、浅野にすれば、塩は赤穂藩の目玉商品であり、製法は生産者たちの秘密です。藩主だからといって、勝手にそれを他へ洩〈も〉らすわけにはいきません。そこで、吉良への返答は曖昧〈あいまい〉で、あくまで、「自藩の企業秘密」として、絶対に洩らしません。怒った吉良は、「よし、わかった。それならば別の件で意地悪をしてやる」と考えます。ちょうどこの頃、浅野長矩は京都の朝廷から来る勅使の接待を命ぜられていました。来る公家の方も、迎える江戸幕府の方も、互いに、「古くから定められた礼儀作法」に基づいて、やり取りのセレモニーを行ないます。浅野は、はじめてそんな役を仰せつけられたので、勝手がわかりません。徳川家の大名で、こういう方面に明るいのは「高家〈こうけ〉」にランクされている旗本です。吉良上野介はその筆頭でした。そこでやむなく浅野は吉良のところに行って、「勅使をお迎えする作法をお教え下さい」と言います。吉良は、「教えてもいいが、それには条件がある。例の塩の製法だが、赤穂の秘宝を教えてもらえまいか」と持ちかけます。浅野は断ります。そこで吉良は、散々に意地悪をします。たまりかねた浅野は、若いのでカッとして切れました。

「江戸城内では、絶対に刀を抜いてはならない」という掟〈おきて〉があります。浅野はこの掟を破りました。そのために、吉良は簡単な傷を負っただけで済みましたが、浅野の行為は幕府の掟に背いた、ということで切腹させられ、家も潰されます。忠臣蔵はこうして起こります。

藩境を越える学問の自由

つまり、それほど「藩の掟」は厳しく、各藩も、生産物や財政運営についてはみんな、「他に知られたくない秘密」を持っていました。そのために、何よりも、禁止されたのが、「住民の旅行と、情報の交流」です。しかし、こういう厳し状況の中で、いくつか、「思い思いにしてよい」と定められた項目があります。たとえば、武術の修行です。学問の習得です。もう一つは信仰です。よく、「文武両道」と言いますが、剣術や槍術など武術に関する修行は、藩の境を越えて、「その道の達人」を訪ねて、これを修行することが自由でした。その時の旅には、藩や幕府が通行証を発行します。学問も同じです。

「ナニナニ地方に、こういう学問の立派な先生がおられる」と聞けば、学問に志す者がその先生を訪ねて行って弟子になることは自由でした。つまり、武術や学問の習得には、「藩の境を越えて、学ぶことができる」ということでした。したがって、厳しい藩境の関所を通って、他国へ入れたのです。

こういう状況から、学者の中では、「他国の学者との交流」が頻〈しき〉りに行なわれるようになりました。しかし、それもだんだん性格が定まって来て、よく言われる、「類は類を呼ぶ」、あるいは、ヨーロッパの方でいう、「同じ羽の色の鳥は、同じところに集まる」という現象が起こりました。学問ですから、その論ずる学派によって集まることもあります。大体、これが主でしたが、私は、「論を越えて、学者個人の人間性に魅力を感ずる」ということもあったのではないかと思います。そしてもう一つの特徴は、学者も次第に「実学」を重んずるようになり、「世の中に役立たない学問は、死学だ」とさえ言われるようになりました。 (つづく)

より良いウェブサイトにするために、ページのご感想をお聞かせください。

このページに問題点はありましたか?(複数回答可)

このページに関するお問い合わせ

教育委員会 平洲記念館
〒476-0003 愛知県東海市荒尾町蜂ケ尻67番地
電話番号:052-604-4141
ファクス番号:052-604-4141
お問い合わせは専用フォームをご利用ください。