平洲塾147 尾張藩の改革と平洲先生の役割(3)

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ページ番号1004552  更新日 2023年2月20日

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「いくらかかるか」よりも「なにが民を幸福にするか」が大事

なぜ前号の様なことを書いたかといえば、現在の日本の中央行政も地方行政もどちらかといえば、「予算本意ではないか」と思われるからです。本来、民〈たみ〉に及ぼす政策というのは、「どういう政策が現在の民(国民や住民)を豊かにするか」という観点から行なわれるべきです。それが次第に、「その政策にどれだけ金が掛かるか」という方向だけに目が向けられ、政策の扱われ方も、「予算額によって決まる」という傾向を強めているからです。もちろん予算策定の原則は、「入を量〈はか〉って出〈いず〉るを制する」というものです。西郷隆盛でさえその「遺訓(『南洲翁遺訓』)」の中で、このことを主張しています。しかし西郷には、政治に対する哲学や理念がありましたから、必ずしもかれの言を言葉通り受け取るわけにはいきません。西郷の心の底にはおそらく、「金の問題を考える前に、どういう政策を行なうかを確立する必要がある」ということがあったと思います。入るというのは、収入のことです。出るというのは支出のことです。したがってこの言葉をすっと受け止めれば、「収入に応じて支出を考える」ということになるでしょう。もちろんこの考えは大事ですが、しかしそう言い切ってしまうと、結局は、「国家や地方自治体が考える政策は、収入によって定められる」ということになりかねないからです。ぼくも地方自治体(東京都庁)にいて、常にこの問題にぶち当たりました。そして、このことは役所内の力関係にも影響します。いってみれば、役所というのは役人たちが最も関心を持つ「人事(ヒト)と予算(カネ)」に関わりを持ち、それを左右できる部署や人(役職)が目立ちます。ですから、だれもがこういうセクションで仕事をしたいと願うのはごく自然なことなのです。しかし、それがセクトリズムになると、いわゆる“縄張り争い"に発展し、さらに、「人事と予算を担当とする部局が最もその組織で力を持つ」ということになります。こういう弊害を打破するためにも、ぼくは、「カネ(予算)よりも先に仕事(政策)を論議すべきだ」という考えをずっと貫いてきました。たとえば、今の日本の地方自治体(都道府県市町村)には必ず「企画あるいは計画」を担当するセクションがあり、その役所の中でもかなり上位に位置しています。これは、「その自治体が住民に対し何を行なうか」という一番大切な仕事を担当しているからです。「上位」という言葉が誤解されるといけないので、ここでその意味をきちんと整理しておきますが、ぼくがいう「上位」というのは、「その自治体の首長の身近に置かれたセクション」という意味です。

予算よりも計画が先

つまり首長には、やはり選挙で選挙民と約束した公約があります。その公約には選挙だけのものに終わってしまうものも時に含まれます。それは、何期も首長を務めたベテランならそんなことはありませんが、やはり新しく立候補した人で実務経験の薄い場合には、場合によっては、「選挙に勝つために、思いつきで約束してしまう政策」が入るからです。当選して首長になり、役所に入って職員と議論をしているうちに、自分の公約の中でも、「ああ、このことは無理だったのだな」と思うことが絶対にないとは言えません。そのことの是正や、あるいは二度と「できないことは約束しない」という誠実な行政を行なうためには、何といっても、

  • 住民の求める行政(ニーズ)の基になる情報の収集。
  • 逆にこちら側から、首長の理念に基づいて行なう行政のPR
  • 具体的に、年度単位で行なう仕事の周知や、長期計画の場合にはその目的と実行可能な年限の設定。

などを、事細かに調査し立案する機関が必要です。これがぼくは自治体に置かれた企画(計画)セクションの役割だと思っています。そうなると、最も身近な場所(つまり首長室に近い場所)に置いた方が、物理的に便利です。そのためにぼくは「上位」という言葉を使いましたが、これは役所のセクションの重要性の上下などを言っているのではありません。あくまでも、「企画・計画部門は、首長室の近くに置くべきだ」という物理的な意味からです。このことはさておいて、本題に入ります。ぼくは予算を編成する前に、必ず、「来年度は、何を重点施策として据えるか」ということからはじまり、絶対にやらなければならない仕事を網羅して、組み立てる「施策確定会議」が必ず必要だと思います。そしてぼくは能天気ですから、「真に住民のためになると思う施策ならば、はじめはいくらかかるかなどとカネの問題など度外視して議論すべきではないか」と思っています。特に首長が理念とする自分の思想やそこの自治体の特性を示すC・Iの設定や、他では見られない画期的な考え方などを示す、つまり“本当にその首長が自己の利益を度外視して、真に住民のためにやりたい仕事"があるのならば、そのことは徹底的に部下職員と論議すべきだと思います。そしてそれに大変なお金が掛かるのであれば、他の仕事にかかる費用を削ってもプライオリティ(優先順位)としては、あくまでもその政策を設定すべきでしょう。ですから、ぼくは、「まず計画ありき。そして、次にその政策に必要とする予算ありき」が、本来の守るべき原則ではないかと思っているのです。 (つづく)

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