平洲塾132 藤樹スピリットで生きる福井俊一元町長(1)

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ページ番号1004568  更新日 2023年2月20日

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安曇川町(現:高島市安曇川町)の元町長がテレビに

閑話休題〈かんわきゅうだい〉という言葉があります。使われ方は、それまでの話を棚を上げて「それはさておき」とか「さて」などの意味に使われます。いわば接続詞です。閑話というのは無駄話ですから、「無駄話はこれくらいにして」という意味でしょう。しかし、日本の文章における使われ方は必ずしもそれまでの話の流れが「無駄話」とは限りません。本題であり、本道の話の場合が多いのです。今回ぼくもこの「閑話休題」を使わせていただきます。

しかし、これから書くことは決して無駄話ではありません。先回まで書いてきた細井平洲先生に絡〈から〉む「米沢と鶴岡の話」にも関わりがあります。具体的事実が関わるというものでなく、テーマというかモチーフが平洲先生にも関係がある、ということなのです。

この間、テレビのBS放送を見ていてびっくりしました。懐〈なつ〉かしい福井俊一安曇川〈あどがわ〉元町長さんが現われたからです。町長さんはお元気でした。町長さんを辞めたあと、町の活性化のために「アドベリー」を生産なさっているそうです。安曇川町は、滋賀県の琵琶湖畔にあります。京都から湖西線に乗って、かなり奥へ入った地域です。ここは、歴史好きな人はご存じでしょうが、有名な近江聖人〈おうみせいじん〉中江藤樹〈なかえ・とうじゅ〉が生まれ育ったところです。また、かれが故郷に帰って以来、塾(藤樹書院)を開いて、地域の人びとに学問というよりも「人間の生き方」を教えたところです。この時の藤樹書院のお弟子さんは、農民・漁民・馬方〈うまかた〉などの労働者が主でした。当時の教育が地域の人びとにどういう影響を及ぼしたかは、馬方又左衛門〈またざえもん〉のエピソードが有名です。

馬方〈うまかた〉の美談

又左衛門はある時、加賀百万石の御用飛脚を馬に乗せました。宿場まで運びました。家に戻って馬を小屋に入れ、後始末をしていると鞍の間に袋があるのが目につきました。手に取って、びっくりしました。中にはずっしりと重い小判がたくさん入っていたからです。又左衛門はすぐ気がつきました。

(これは、加賀藩の御用飛脚さんが忘れたものだ)

そこですぐ加賀の飛脚さんの宿場に掛けつけました。一方の飛脚さんは、宿に着いて荷物を整理していると、加賀藩から預かったお金の袋がない事に気がつきました。びっくりしました。すぐ真っ青になりました。

(あのお金がないと、自分は死罪になる)と思ったからです。宿の主人に訊〈き〉きましたが、主人は、「いえ、そういうお荷物はお持ちではなかったと思いますよ」と言いました。飛脚もそのことを知っていますから、(どこへ落としたのだろうか?)としきりに考えました。琵琶湖畔の街道を通っている時に、うっかり眠ってしまったのです。あの居眠りの時に落としたのだと思いましたが、どうすることもできません。もし街道に落としたのなら、とっくに誰かに拾われてしまったでしょう。

「さあ、弱ったなぁ」と絶望の底に沈んでいる時に、入口の方で大声がしました。さっき乗った馬方の声です。

「加賀の飛脚さんいらっしゃいませんか、忘れ物ですよ!」と大声をあげています。飛脚は転がるように階段を駆け下りました。入口で又左衛門が金の袋を宙で振り回しながら、忘れ物です、忘れ物ですと怒鳴っています。飛脚は思わず又左衛門に飛びつきました。

「馬方さん、それは私の物ですよ!」

「ああ、飛脚さん、ここにおられましたね、よかった、よかった!」と自分の事のように喜びます。飛脚は感謝して金袋を受け取りました。そして自分の財布から、小判を出して、「これはお礼ですよ」と渡しかけました。又左衛門は強く首を振ります。そしてこう言いました。

「冗談じゃありませんよ。このお金は飛脚さんのものです。元の持ち主に忘れ物を返すのに、何で私がお礼を貰〈もら〉わなければならないんですか」

「そんなことは分かっていますけれど、私にとっては命にも代える大切なお金だったのです。だからあなたがお金を届けてくれたのは、私が一旦失った命を届けてくれたのと同じです。ぜひお礼をさせてください」

「いえ、だめです。受け取れません」

押し問答が始まりました。宿にいたお客さんたちも、一体何が始まったのだろうかと下へ降りてきて見物します。結局、飛脚が折れました。そして20文〈もん〉のお金を出して、「では、あなたのご厚意に甘えてお礼のお金は減らします。これだけは受け取ってください。加賀藩のお金ではありません。わたしの持ち金ですから」と言いました。お客さんが一杯見物していますから、又左衛門はそれ以上頑張るのはやはり気が引けたのでしょう。渋々〈しぶしぶ〉、「では、いただきます」と言って礼金を受け取りました。しかし受け取るとすぐ宿の主人に向かって、「これであまりお金のないお客さんにお酒をさしあげてください」と言いました。宿の主人はびっくりしました。飛脚の顔を見ました。飛脚は已〈や〉むを得なさそうに頷きます。宿の主人は、「まったくあんたは変わった馬方さんだね。言う通りにしますよ」と請け負いました。又左衛門は安心したように宿を去って行きました。 (つづく)

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