平洲塾125「職位をこえる共通項は「恕〈じょ〉」と「風度〈ふうど〉」」
職位をこえる共通項は「恕〈じょ〉」と「風度〈ふうど〉」
名古屋市の西尾市長が、「50歳を過ぎた地方公務員を対象にぼくに研修を頼んだのは、恐らく、「定年まで10年勤めても、ついに職位の上であまり偉くなれなかった人々に、どういう心持ちをすればよいか、慰めと励ましの言葉を伝えてほしい」ということだと思います。悪い言葉を使えば、「定年までに、もうあまり出世しなくてもそのことにこだわらないでほしい。市民のために、精いっぱい仕事をしてほしい。それにはどういう心持ち心構えを持ったらよいか」ということだろうと思うのです。悪い言葉を使えば、まだまだ出世をしたい人たちに対しても、「そろそろ、上位への夢は捨てて、別な方面に仕事の価値を見出してほしい」ということだと思います。このことは、実をいえば人事管理上大変な課題です。本来は、外部の人間であるぼくに依頼することではなく、市自身が考えなければいけないことだと思います。それはなんといっても、市も地方自治体ですから、「地域への密着」ということが大事なのです。ということは、その地域が持っている"特性(コミュニティー・アイデンティティー)"をしっかりと踏まえた上での考察でなければなりません。ぼくは東京人で東京以外の地域をあまり知りません。いってみれば、名古屋市からみれば、「よそ者」です。そのよそ者に、内部にいる人と同じような感覚で、その課題を考えろといってもどだい無理なのです。しかしぼくは西尾さんを尊敬していましたし、また、「なんらかの形で、お役に立ちたい」という思いもしきりでした。そこで、ごちゃごちゃといろんなことを考えずに純粋にこのテーマに向き合い、「聞いてくれる職員が、納得し、そして明日からも今までどおり一所懸命仕事をしよう、という意欲を保ち続けてくれるような話をしよう」と考えました。歴史作家にこういう話を頼むくらいですから、歴史上の人物を過去のトンネルから連れ出してきてもいいだろう、と考えて、ぼくはやはり、「上杉鷹山と細井平洲先生の教え」に的を絞りました。「恕〈じょ〉」という言葉とともに、このときからぼくがほかの講演でも使いだした言葉に「風度〈ふうど〉」というのがあります。風度というのは、「相手に、この人の言うことなら、やることなら、という"なら"と思わせるこっち側の気(オーラ)」のことです。古い言葉に、「人たらし」という言葉があります。よく使われたのは"女たらし"という言葉ですが、これはあまりいい意味ではありません。男性が、女性の財力に目をつけて、骨の髄〈ずい〉まで搾〈しぼ〉り取るような悪い性格の男性のことをいいました。ぼくがここでいう"人たらし"というのはそうでうではなくて、「その気にさせてしまう」という魅力のことです。役所でいえば、「うちの係長なら、その言うことは正しい。なぜなら、いつも市民の立場でものを考えているからだ」とか、「うちの課長なら、その指示命令にはいつでも従う。なぜなら、この課長もいつも市民の身になって、その求めるものを考えているからだ。うちの課長のやることなら、黙って従っても絶対に間違いない」などという使い方をされる言葉です。ぼくはこの研修で、「常に恕の気持ちを持ちながら、自分の風度を高めましょう」と話しました。この風度を一人ひとりが磨く過程においては、「局長さんは局長さんらしい風度を、部長さんは部長さんらしい風度を…」というように、現在の職位に応じた"風度"を磨いてくださることをお願いしました。この「恕と風度」については、その後のぼくは現在の講演でも活用しています。というのは、この2つの言葉は、別に50歳になったからあとの10年をどう生きるかということだけではなく、あらゆる場で生きる人々に役立つだろうと思うからです。
もっといえば、「平洲先生が、両国橋のたもとで講釈をなさったときも、あるいは神田の塾で門人たちに教えておられたときも、すべてこの『恕』の気持ちを持ち、人のために役立つ『風度の培養』に努力しなさい」とおっしゃっていたと思うからです。
現在、行政(県や市町村)の施策の一つに「生涯学習」というのがあります。しかしぼくもこの講座の講師としてあちこちの県や市町村などとおつき合いをしてきましたが、いろいろな科目が多い割合には、「あらゆる科目を貫くバックグラウンド(背景あるいは芯さらに伏流水のようなもの)」がありません。生け花は生け花、焼き物づくりは焼き物づくりなどというように、いわば講座が縦割りで、「横に結ぶ共通性」が見られないのです。それをぼくは、「恕と風度によって各科目の底に流す伏流水にしたい」と考えたのです。
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