平洲塾97「キメツケをきらった平洲先生(2)」

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ページ番号1004605  更新日 2023年2月20日

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キメツケをきらった平洲先生(2)

「孝」で結びついたふたり

ぼくは、平洲先生が高山彦九郎と長年心の交流をおこなったのも、おそらくふたりの胸の底にあったこの「孝の心」が発端だと思います。つまり平洲先生は人間に対しキメツケをしません。他人がどんなことをいおうとも、「いや、あの人の底にはとてもいいものがある」という発見をしつづけ、その発見したものを大切にしてつき合っていくのです。多くの社会の人はそういう面倒なことはしません。うわべだけで、あるいは噂だけで「あの人はこういう人間だ」とキメツケてしまいます。

したがって平洲先生の他人に対する態度は、すべて、「その人の深層を流れている真実」を探し当て、その真実と平洲先生自身が持っている、胸の底にある真実とを交流させるのです。こういうことはなかなか人間同士ではおこないません。ほかのことに忙しくて、つい人の噂や、自分の第一印象でその人間をこうだとキメツケルことが多いのです。

そうなると、いままで伝えられてきた、いやいまも伝えられている「人間や物事に対するみかた・受けとめ方」は、大いに反省しなければならないことがたくさんあるのではないでしょうか。つまり、「あの人は、ほんとうに噂どおりの人なのだろうか?」という疑いを持って、改めて自分の眼でその人なり物事なりをみきわめることが大事だと思います。それには改めて"自分だけの時間"が必要になります。

平洲先生は口に出さなくても、いつも"自分だけの時間"を用意して、"自分のみかた・受けとめ方"を養いました。つまり相手の深層にひそんでいる真実を突き止めることが、平洲先生にとっては大事な仕事でした。

そして、ぼくの独断ですが平洲先生の学問は、そういうところにあったと思います。

つまり、「人間の真実」を探し当てることに、大いに学んだのではないでしょうか。

そして、そのことは、伝記によると高山彦九郎もおなじです。かれは無学者ではありません。大変な勉強家です。同時にまた大変な親孝行でした。しかしかれは若いうちに父と母を失っています。そこでかれが孝の対象にしたのがおばあさんです。祖母でした。この祖母を慕い、日常その細かい面倒をみる切実なかれの姿は、眼に浮かべただけで胸が熱くなります。

平洲先生も前に書いたように親孝行でした。ですから、ふたりの真実というのは「孝」によって出会いました。こういうときによく使われるのが、「おぬし、やるな」という言葉です。ぼくの好きな言葉です。いまでもいろいろな達人に会うと、ぼくは思わず「おぬし、やるな」とつぶやきます。それはなにもいまの仕事に直接関わりを持つ人だけではありません。タクシードライバーでも、飲み屋のおじさんでも、あるいは八百屋のおばさんでも、自分の仕事一途に打ちこんで、「いまいる場所で、自分の真実を照り輝かせている存在」には、思わず頭が下がります。

恕の心と孝の心

それは、家にいて小さな草花を育てている人にもいえるでしょう。育てる人は決して自分だけの楽しみで植物を育てているわけではありません。「庭先を通り抜ける人びとの心を癒〈いや〉してさし上げたい」というきもちが、その底にあるからこそ、植物もその育て手のきもちを察して、美しく咲くのです。そしてそのきもちはいままで触れたかもしれませんが、やはり「恕の心」といっていいでしょう。

「恕の心」というのは「相手の立場に立ってものを考える、こちら側のやさしさと思いやり」のことです。

平洲先生が上杉鷹山に対し、「殿様は、いつも父母(親)のきもちをもって民に接しなければなりません」とさとしたのも、別ないいかたをすれば、「恕の心をおもちください」ということです。そう考えると、「恕の心」もそのまま「孝の心」につながります。「孝の心」を中江藤樹流に考えれば、「誰に対しても、やさしさと思いやりをもつ」ということになります。

高山彦九郎も「恕の心」をもっていました。ですからそれを日本の片隅で実行している善行者たちを探し歩き、発見したことを平洲先生に報告しました。

平洲先生は講話の時に、よく世の中で起こっている実例をあげました。そのほうがきき手の理解が促進されるからです。

これは推測です。平洲先生がとりあげた実例の中には、高山彦九郎からきいた話もあったのではないでしょうか。平洲先生はおそらく、「だれが話そうと、いい話はいい話だ」という、キメツケをしない人間観をもっていたと思います。さらに「いい話はきいた人間が、さらに拡散しなければダメだ」と考えたと思います。

「いい話は万人のもので、パテント(特許)などない」と考えておられたと思います。

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