平洲塾82「「当り前のこと」が「非常のこと」に」

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ページ番号1004620  更新日 2023年2月20日

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「当たり前のこと」が「非常のこと」に

「当り前のことを軽くみて、その当り前のことさえやらなくなってしまう」という風潮を、細井平洲先生は、「人間の意識の問題」としてとらえました。ですから、「そのみすごしてきたことを取り返すためには、現在を非常のときととらえて思い切った意識改革が必要になる」とおっしゃるのです。だからこそ、当り前のことを当り前のこととして意識するためには、「ここでいまの時期を非常のときと考え、非常のときに対応するような意識に切り替えると同時に、当り前のことを非常のこととしておこなう」ということになるのです。ふつうなら、「みなさん、当り前のことをお忘れになっていますよ。もう一度考え直して、当り前のことをおこないましょう」とおっしゃればすむところを平洲先生はそうはいいません。そんないい方をしても、すでに当り前のことを軽くみることに慣れてしまった人びとには、おそらく馬の耳に念仏でしょうし、こっちの耳からこっちの耳へ通り抜けるだけの言葉になってしまうと思っておられるのです。そのへんは、庶民の事情に通じている平洲先生には、ものごとをクールにみきわめる感覚がありました。なにしろ、「学者の講義も、一般大衆の人びとがうなずくようなものでなければダメだ」とお考えになって、江戸の両国橋の大衆芸人の集まる場にまで出かけていった平洲先生のことです。庶民感情がどんなものであるかはよく知っておられました。ですから、この、「当り前のことがおこなわれていない」ということは、平洲先生にすれば、「庶民にとっての当り前のことが、もうバカバカしくて当り前のことではなくなっているのではないか」とも考えられたのです。しかし平洲先生にすれば、その当り前のことというのは、たとえば、

  • 親には孝行をする。
  • 兄弟や夫婦は仲良くする。
  • 年長者を大切にし、その意見を重んずる。
  • 弱いものいじめはしない。
  • 礼儀と道徳を重んずる。
  • 困ったときはお互いに助け合う。

などということがすべて"当り前のこと"でした。それが守られなくなったというのは、やはり一般大衆が、この当り前のことが当り前でなくなったということなのです。政治や社会のせいで、「いくら当り前のことを守ろうとしても、それが守れるような世の中ではなくなっている」ということもあるでしょう。平洲先生がいちばん心配したのはこのことです。しかし平洲先生は、「修身・斉家・治国・平天下」を、世の人びとがすべて守らなければいけない「この世のプロセス(過程)」と考えておられました。この国(日本国)が平和に経営されるためには、なんといっても「その日本国を形成している藩(大名家。このころは藩が十割自治なので住民にとっては、基礎的な政府でした)が、それぞれ責任を持っていわゆる"地方自治"を実現していること」が大切です。しかし城の藩主(殿様)や役人(藩士)だけがいくら張り切っても、これは実現できません。いまでもそうですが、やはり住民の協力が必要です。そうなると住民のほうも、「自分が属している家庭の自治を実現すること」と、そのために「家庭を構成している個人のひとりひとりが責任を持って自分の自治を実現していること」が大切になります。平洲先生は常に、「社会と政治、そして学問との関係」を頭においておられました。それを、「だれでもわかるようなやさしい言葉と考え」によって、おこなおうとされたのです。そしてもっといえば、これはぼくの推測ですが平洲先生はおそらく、「すべては、ものごとのスタートになる個人の修養にかかっている」と考えられたのではないでしょうか。そこで平洲先生の学問は、「ひとりひとりの人間にとって、足元の闇を照らす提灯〈ちょうちん〉のような役割を果たしたい」と考えられたのです。そして平洲先生にとっては、親に孝行することや、夫婦や兄弟が仲良くすること、あるいは年長者を尊びその意見を大事にすることなどがおこなわれなくなったのは、やはり、「世の中が悪くなっているからだ」と思われます。世の中が悪くなっている根本原因はやはり政治にあるとお考えになるのです。しかしだからといって平洲先生は、「政治家だけを責め立てればいい」ということではありません。やはりその政治にかかわりのある各家庭や個人の責任も感じなければ、よい世の中にはなりません。つまり、家庭にもその家庭を構成している個人にも、「政治をよくするか悪くするかの責任がある」と考えられるのです。つまりいまでこそ政治には、「国民や住民の参加が必要だ」といわれますが、平洲先生は江戸時代にすでにそのことをおっしゃっているのです。
(つづく)

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