平洲塾78「嚶鳴フォーラム欠席の理由(「嚶鳴之図」の発見(2))」

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ページ番号1004625  更新日 2023年2月20日

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嚶鳴〈おうめい〉フォーラム欠席の理由 「嚶鳴之図〈おうめいのず〉の発見・その2」

ところで、毎年おこなわれる嚶鳴〈おうめい〉フォーラムに、一度として欠席したことはなく、必ず発言の場をいただいていたぼくが、ことしは欠席しました。『小説上杉鷹山』を書き『へいしゅう先生』を書いたぼくにしては珍しいことです。わけがありました。そのことを、私事ですがちょっと書かせていただきます。

ぼくはかつて東京都庁に勤めていました。51歳のときに辞めました。ほぼ30年間勤務しましたが、役職者(管理職)をほぼ20年経験しました。そのために、頼まれ仲人〈なこうど〉をかなり多くおこないました。30数回あったと思います。結婚式には必ず仲人の挨拶がありますが、ぼくはいずれの場でもよくある、新郎・新婦の経歴や、どこの大学を出た秀才だとか、才媛〈さいひ〉だとかいう話は一度もしたことがありません。それがほんとうなら、日本中秀才と才媛だらけになってしまうからです。そんなことよりもぼくは、「ふたりはどういうきっかけで知り合い、どこに魅力を発見していっしょになる気になったのか」という動機を事前にふたりから取材し、それを基〈もと〉にして挨拶文を練り上げました。つまり、「ふたりが夫婦になろうとした動機」を列席者に紹介するのです。そしてふたりに対するはなむけの言葉としては、ハイネの詩を利用します。ハイネはこういいました。

「愛し合う者は常に川のおなじ岸を歩め。決して両岸に分かれてはいけない」というものです。川の上流はまだ狭〈せま〉いので、あっちの岸、こっちの岸と渡っても、すぐいっしょになれます。しかし河口にいけば川幅が広がり、橋がなければどうにもならないことが起こります。つまり、分かれた岸を歩いていれば、再びいっしょになることはできず、遠く上流まで戻らなければならないような事態が発生するのです。ハイネはそれを戒めて、「愛する者同士は、決して岸から離れてはいけない」と戒めたのです。この言葉が好きで、ぼくはどの結婚式でもおなじ言葉をはなむけにしました。

30回目ぐらいの仲人をしたときのことです。一年ばかり経って、ぼくが重要な会議に出ていると、秘書がメモを持って入ってきました。この秘書はなかなか胆力〈たんりょく〉のある男で、どんなエラい人が集まっていてもビクともしません。いわばポーカーフェイスでぼくにメモを渡しました。メモには、「あなたが仲人した○○君に子どもが生まれました。至急名前を考えて欲しいとのことです」と書いてあります。ぼくはすぐ手許にあったメモにペンを走らせ秘書に渡しました。

「すぐ考えるから、10分か15分後にもう一度こい」15分後に秘書がまたやってきました。ぼくはすでにメモに書きつけた子どもの名を渡しました。秘書はニコリと笑って去っていきました。が、10分ばかり経ってまたやってきました。メモを渡します。メモには、「○○君は承知しません。こんな名前ではイヤだといっています。ご再考ください」と書いてあります。ぼくは思わず顔をしかめました。

(こいつめ)といった眼で秘書をみましたが秘書は例のポーカーフェイスで平然としています。ぼくは、「わかった。考え直す。15分後にこい」と告げました。知事がそんなぼくを見咎〈みとが〉めました。

「きみはなにをやっているのかね?」とききました。ぼくもまたこういうときは平然とした胆力を持っています。

「ちょっと局内にゴタゴタが起こりました」と応じました。知事は、そうかそれは大変だねといってまた議論に戻りました。再考した名をメモし、またやってきた秘書に渡しました。

呆〈あき〉れたことにさらに秘書がやってきたことです。メモを渡します。メモには、「これも本人は気に入りません。いっそのこと、あなたの名前が欲しいといっています」と書いてあります。ぼくは完全にギブアップして、わかった。そのとおりにしなさい」と告げました。長い話になりましたが、この男の子どもはぼくの本名をそのまま名乗っています。そして、そのぼくとまったくおなじ名前の男の子が成人して、今度結婚することになったのです。母親(父親はすでに亡くなりました)の希望で、ぼくが主賓〈しゅひん〉ということになり、その場で挨拶を求められたのです。これが、米沢でのフォーラムの日と一致していました。どっちを選ぶかという二者択一に迫られ、ぼくは私事ではあっても、そういう事情なのでサミットのほうを欠席させてもらうことにしたのです。この決断をするときに、思わず細井平洲先生のことを思い浮かべました。そして、「平洲先生なら、笑ってゆるしてくださるだろう」と考えました。甘えです。でも、平洲先生なら、「わかった、サミットはいいからそっちへいきなさい」とおっしゃってくださったと思います。

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