平洲塾72「敬師の系譜をつくった平洲先生(2)」

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ページ番号1004631  更新日 2023年2月20日

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我妻〈わがつま〉博士の心の弔詞〈ちょうじ〉 敬師の系譜をつくった平洲先生(その2)

《民法学者・我妻栄博士が、小学校時代の恩師・赤井運次郎先生の葬儀で読んだ弔辞のつづき》

先生が、米沢の教育界に尽された数々のご功績、また、米沢地方の文化の発展のためにお働きになりました数々のお仕事は、先程、高橋与市君から回想していただきました。また、市長さんや、教育委員会の方からも、詳しくお述べ下さいました。それで、私は、そういうことを申し上げることを一切省略いたしまして、先生と私との間の、全くプライベートなことでも申すべきことを2つほど、ご報告申し上げて、お別れの言葉といたしたいと思います。

今日、2月12日は、実は、日本学士院の総会の定例日であります。ご承知の通り、日本学士院は、毎年、恩賜賞と学士院賞とを授与して居りますが、私は、その選考委員の一人で、殊〈とく〉に、今年は、私が主査をして居ります者が、一人授章の候補になって居ります。そして、今日は、最終決定をする日に当って居るのであります。そこで、今日、お葬式に出て来るために、それを欠席することは、ちょっと躊躇〈ちゅうちょ〉されたのでありますけれども、どうしても、お葬式には出て来ようと決心して居りましたので、第一部長の南原繁さんと相談いたしましたところ、南原さんは、「それは、お葬式の方が大切だから行け」と、選考委員会の方は、実は、委員会や分科会を経まして、だんだん積み重ねて来て、今日は、最後の部会でありますから、形式的には、非常に重要な決議でありますけれども、実質的には、もう、すでに決まっているといってもいいようなものであります。そして、推薦〈すいせん〉のことばや、私の調査の報告書は、すでに、印刷して配ってありますので、誰か代わりの人が、それを報告してくれても、事は済むのだと、南原さんも言ってくれるものですから、誰に代わりを勤めてもらおうかと考えまして、専門の性質上、金沢大学の学長をして居ります中川善之助君が、一番適任だろうということで、早速、金沢に電話を入れましたら、中川君は、快く引受けてくれましたので、私は、こちらに参ったような次第であります。丁度、時刻から申しますと、第1部会が3時に始まりますから、もうじき、中川君が、私の代わりを勤めてくれることだろうと思います。

こんなことを申しましたのは、実は、南原さんも、中川君も、2人とも、赤井先生を存じて居るのでございます。無論、赤井運次郎という名前を、はっきり知っているかどうかはわかりません。しかし、米沢に、私がお世話になって敬愛している先生が、90歳以上の高齢で、矍鑠〈かくしゃく〉として居られるということは、2人とも、よく知って居ります。そこで、今度、急に亡くなられたので、お葬式に参りますと言いましたら、あっ、あの先生か、是非葬式に行って来いと、こう、2人とも言ってくれたのであります。

先生。どうぞ、この2人からも、先生のご冥福を祈るということばを承って居りますので、それを、お受取り下さるようにお願い申し上げます。

先生、私が、文化勲章を受章しましたときに、先生は、お祝いをして下さいました。また、先生が、90歳に達せられましたときに、私が幹事役をつとめて、お祝いをいたしました。この2つの最近の出来事は、私にとっては、忘れ得ないことでありますが、先生も、たいそう喜んで下さいました。そして、私は、この喜びをいろんな機会に話をしたり、あるいは、私の随筆に書いたりいたしましたので、私の先輩や、私の周囲の者は、あるいは、私の弟子たちは、そうした高齢の先生が、郷里においでになるということを、うすうす知って居ります。先生が亡くなられたことを伝え知りましたら、先生のためにも、何〈いず〉れも、ご冥福を祈ることだろうと思います。

先生。どうぞ、そうした、弔詞も読まないし、弔電も寄せないけれども、心の中で、先生のご冥福を祈っている法律学者が、たくさんいることを、お知りおきいただきたいと思います。これが、先生にご報告申し上げる第1の点であります。

ご報告申し上げる第2の問題は、『日本政治裁判史録』の第2巻が出来たということであります。『日本政治裁判史録』の第2巻と申しますと、先生は、すぐ「あゝあれか」とお考え下さるだろうと思いますけれども、ご列席の皆さんには、おわかりにならないと思いますので、ちょっと、失礼して、その説明をさせていただきます。(つづく)

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