平洲塾69「土でつながるヒューマニズム 4」

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ページ番号1004634  更新日 2023年2月20日

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土でつながるヒューマニズム〈土の思想家たち〉 その4

「バランス・シート」というのがあります。ソロバン勘定をして、プラスとマイナスの均衡をはかり、収支を常にゼロ状態におくということです。言葉を変えれば赤字を出さないということです。しかしぼくが平洲先生の『嚶鳴館遺草〈おうめいかんいそう〉』を読んで感ずるのは、単に帳簿上のバランスシートだけではなく、「心にもバランスシートがある」ということです。心のバランスシートというのは、「自分の利益と他人の利益を常におしはかる」ということではないでしょうか。平洲先生がいう、「再建・復興のためには、非常な心がまえが必要になる」ということは、いまのままでいいと考えるなということでしょう。去年の大震災のときにぼくは衝撃を受けました。そして自分を振り返り、「果して、いまのような生き方をしていていいのか?」
と考えました。おそらく多くの日本人がそう考えたことでしょう。このHPを読んでくださる方もおなじだったと思います。ですから新しい年がはじまっても、多くの人びとが決して「おめでたい年だ」などとは思っていないでしょう。今年は去年からの連続性・継続性があります。3月11日に味わった大衝撃と、またその後の"憂鬱な重い気分"はそのまま引き継がれています。いつまで経っても安全性が確保されないあの福島の原子力発電所の壊れた姿をイメージするだけでも、この思いはさらに募ります。あの発電所の始末がきちんとつくだけでも、どれだけ日本人(あるいは世界の人びと)の憂鬱なコブが取れることでしょうか。
こういうときに平洲先生のいう、「非常な時の心がまえ」というのは、心のバランスシートの均衡を保とうということです。具体的にどういうことかといえば、平洲先生は、「非常な心がまえというのは、いままでの生き方を改めて倹約をすることだ」といいます。倹約をするということは、なんでも節約をしケチな気分になって余った分を溜めておくということではありません。むしろ、「余らせた分を他人のために使う」ということでしょう。財政上のバランスシートで倹約といえば、「ムダを省き、必要なものにその余らせた分をまわす」ということです。心のバランスシートもおなじです。それは、「自分の欲望やわがままや好きなことを抑制して、その分を他にまわす」ということではないでしょうか。自分の欲望・わがまま・好きなことをがまんするということは、自分を変えるということです。そして、「余らせた分を他にまわす」ということは、他人にそれをさし出すということです。自分の欲望をがまんし、他人にさし出すということはそのまま、「自我を抑え他を愛する」ということではないでしょうか。いってみれば心のバランスシートを保つということはそのまま、「他人に対するヒューマニズムの心を持つ」ということだと思います。
平洲先生が『嚶鳴館遺草』の中で、「とくに政治のトップに立つ治者は、治められる民の父母(親)になれ」といい切りました。非常にわかりやすいたとえです。親になれということは、「子どもが味わっている悲しみや苦しみを自分のこととしなさい」ということです。つまり民の悲しみや苦しみを自分のことと思って、よい政治や行政をおこないなさいということでしょう。現在でもよく政治の世界では、「国民(住民)の立場に立って仕事を考える」といいます。そして、「そのためには、死にもの狂いになって努力します」ともいいます。しかし、ほんとうに"死にもの狂いになって"子どもと思うべき国民(住民)のために努力をしているという例がそれほどあるのでしょうか。
ぼく自身は、身近なところでそういう治者を何人も知っています。が、あえてその名をあげません。というのは、いまの世の中では、「よいことほど発表しにくい」というような風潮があるからです。これはマスコミの世界もおなじですが、必ずしも"よいこと"の多くは語られません。悪いことや歪んだことばかり暴かれるような記事が多いのです。これは、結局は人間の本性として、「よいことよりも悪いことを好む」という傾向があるからでしょう。そして、「よいことほど、世の片隅に追いやられ、また潰される」ということがたくさんあるからではないでしょうか。(つづく)

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