平洲塾59「平洲先生は徳川宗春をどうみるか」

Xでポスト
フェイスブックでシェア
ラインでシェア

ページ番号1004645  更新日 2023年2月20日

印刷大きな文字で印刷

平洲先生は徳川宗春をどうみるか

前回紹介した被災地の中学生の生き方には、そのまま平洲先生が常にいっておられたことが実証されています。平洲先生がいまおられたら、おそらく現地の人に対しては、「この中学生のように元気に生きなさい」とおっしゃるでしょう。しかし、現地から遠いところにいるたとえば東京にいるぼくなどは、どうしたらいいのでしょうか? そう考えると、平洲先生がかつておっしゃった、「自分の足元を照らす提灯〈ちょうちん〉になりなさい」という言葉を思い出します。提灯の灯というのは、学問のことです。しかしいま平洲先生にぼくがおききしたら、平洲先生はおそらく、「いまいる場所で、いま眼の前の仕事に全力を注ぎなさい」とおっしゃるに違いありません。それが即、現地の被災者への励ましにつながっていく、ということだと思います。いたずらに、心の重さに打ちひしがれて暗い日々を送ることが、決して現地の人びとへの励ましになるとは思えません。そんなことをしていたら平洲先生は逆に、「いったい、なにをしているのですか」とお叱りになるにちがいありません。
前回、ぼくが震災のショックで、被災された人びとのことを思い、酒を一時期やめたことを書きました。これは言葉を変えれば、「良心的な自粛」ということです。いまは、被災地以外の地域では日本の各所でこの「自粛」がおこなわれています。しかし、「過度の自粛は、かえって世の中を停滞させ、経済を失速させてしまう」という意味合いのことをいったのは、実をいえば江戸時代の尾張藩主だった徳川宗春〈むねはる〉です。宗春が生きた時代はちょうど第8代将軍徳川吉宗が「享保の改革」を展開中でした。吉宗の考える政策は、江戸町奉行大岡忠相〈ただすけ〉の実行によって示されました。ほとんどが、「ゼイタクを禁じ、自粛せよ」というものでした。そのため江戸市内の歓楽施設や、芝居小屋、特別な飲食店などがすべて営業停止されました。一部の人は、「このままいけば、江戸にペンペン草が生えてしまう」と嘆〈なげ〉きました。この状況をみていた宗春は、「吉宗公のなさっていることは逆だ」といいました。そして、「いき過ぎた自粛は経済を失速させる。経済を成長させるためには、上の者が率先して下の者に華やかなことをさせなければダメだ。それには、大いに公費を使うことだ」といいました。この宗春のやり方を、のちの研究者の一部は、「宗春は、ケインズの経済学を実行したのだ」といいます。無学なぼくにはケインズの経済学というのはよくわかりません。しかし宗春のやり方をみていると、「上流からどんどん金を流し、下流を活性化する」ということのように思えます。下流というのは一般社会のことです。
宗春はそれまで尾張藩の伝統である、「賑やかな民間行事は禁止する」という方針を投げ捨てました。とくに、賑やかなお祭りを奨励しました。名古屋城の中にお祭りの行列を呼びこんだりします。そしてどんどん寄付をしました。
また、江戸で営業場所を失った芝居・遊郭・特別な飲食店などを積極的に名古屋に招きました。江戸のこういう業者たちは、「江戸がダメなら名古屋があるさ」といって、どんどん名古屋へやってきました。
ぼくも講演などの縁で、名古屋市内には、かなり経営者の知り合いがいますが、ある人は、「その後の名古屋の繁栄は、宗春公によってきっかけがつくられた」という人さえいます。
もし平洲先生が同時代に生きておられたら、徳川宗春のやり方にどういう感じを持ったかはわかりません。ぼくの感じでは、平洲先生はむしろ将軍吉宗や大岡越前守が担当していた関東地方の農業政策に近い、というような気もしますが、これは簡単な結論を出すわけにはいかないでしょう。
ぼくは、前に書いた被災地の元気な中学生の言動から励ましを受けました。面白いものです。災害を受けた土地の子どもから、災害を受けなかった東京にいるぼくが励まされるのです。それほどあの中学生たちの姿は生き生きしたものでした。
ぼくはひそかに思いました。

  • 平洲先生がもしおられたとしても、直接、こうしろ、ああしろとはおっしゃらないかもしれない。
  • むしろ、教えられるべき存在は現地にある、といわれるかもしれない。
  • そして、テレビでみたあの元気な中学生は、平洲先生が示されたその例(教材)なのかもしれない。
  • だから、ぼくが中学生から教えを受けて元気を取り戻したとしても、平洲先生は必ず「それでいいのだよ」とおっしゃるにちがいない。

と思ったのです。

より良いウェブサイトにするために、ページのご感想をお聞かせください。

このページに問題点はありましたか?(複数回答可)

このページに関するお問い合わせ

教育委員会 平洲記念館
〒476-0003 愛知県東海市荒尾町蜂ケ尻67番地
電話番号:052-604-4141
ファクス番号:052-604-4141
お問い合わせは専用フォームをご利用ください。