平洲塾44「平洲先生への批判を考える(3)」

Xでポスト
フェイスブックでシェア
ラインでシェア

ページ番号1004660  更新日 2023年2月20日

印刷大きな文字で印刷

平洲先生への批判を考える(3)

細井平洲先生は、これまで何度も紹介したように「難しいことをやさしく説く」という学者であり、同時に庶民層からも非常に慕われていました。こういう状況をみていて、偏った学者観をもつ莅戸善政たちは、「平洲先生は少し俗っぽい」と思ったかもしれません。伊藤仁斎や荻生徂徠が真の学者だというように、莅戸善政には、「自分なりの学者イメージ」というものがありました。
学者というのは、座っているだけでまわりの者が思わず尊敬をしたくなるような威厳がなければダメだと思っていたのでしょう。
平洲先生に威厳がなかったわけではありません。が、平洲先生は逆にその威厳を自分からグチャグチャに崩して、だれからでも親しみやすいような人間になろうとつとめていました。
このへんが、ガンコ者の莅戸善政には完全に理解できなかったのかもしれません。
あるいはもっと勘繰れば、かれ自身がいった最後のことばに、「(細井先生は)とても国の政治にあたらせるような人物ではない」というとおり、(場合によっては、鷹山公は細井平洲先生を藩の重役にお用いになるのではないか?)というような恐れと不安があったのかもしれません。このへんはなんともいえませんが、鷹山に忠実であり改革を積極的に推進したとはいっても、やはり竹俣当綱の崩れがあったように、莅戸善政もやはり人間です。心に弱さがあります。その弱さというのは、「自信がないために、すぐれた人物に追い落とされはしないか」という思いです。
上杉鷹山の改革は、すべての協力者が"一枚岩"のようになって推進されたと考えられます。ぼくもそう思っています。そしてその中には当然、細井平洲先生の存在も大きな意味を持っていたと考えてきました。しかし、莅戸善政のこのことばに、「やはり、米沢藩在来の武士たちのひとりである莅戸善政には、細井平洲先生を完全に身内とする考えが希薄だった」ということを感じます。同時にこれは莅戸ひとりではなかったにちがいありません。平洲先生に対してそういう考えを持っている武士は、ほかにもたくさんいたと思います。学者という者の存在、ブレーンという存在についての深層には、まだまだ解明できない不可解なことがあります。不気味でもあります。しかしこれが人間のほんとうの姿なのだろうか、といろいろ考えこんでしまいました。
どういうことかといいますと、

  • ひとつは学者に対するコンプレックスです。その学問の深さや、ものごとを知的に処理していく明快さが気にさわるのです。それは、「自分にはそれがない」という自覚と自信のなさがそうさせるのです。その思いがつのると、結局は「学者は口舌〈こうぜつ〉の徒(口さきだけの存在)であって、実行者ではない。われわれは実行者だ」という、屈折した自信を湧かせるのです。
  • もうひとつは米沢藩上杉家の武士の"藩(地域)意識"です。米沢藩の人間だけでかたまろう、とするローカリズムです。上杉家は入国以来、出羽〈でわ〉(山形県)地方では"よそ者"の扱いをうけました。そのため藩の人びとの結束はよりつよくなりました。そしてその結果が、平洲先生を"よそ者"扱いする気風になったのです。
    平洲先生がすぐれた学者であることをしっていても、この気風には逆らえません。

そして、(ぼくがいま考えるようなことは、平洲先生は百も承知だったにちがいない)と思いました。そして、「平洲先生は、それを微笑で処理なさったのだろう」と結論づけました。
あらゆるものを呑〈の〉みこんで、いちいち細かく対応し、怒ったり反抗したり抵抗したりせずに、全部微笑の中に呑みこんでしまうような大器〈たいき〉的立場に、平洲先生はいつも立っていたのだ、と改めて感じました。

本のご紹介

細井平洲「小語(しょうご)」注釈
平成7年発行 A5判 345頁 1冊 1,120円(別途送料1冊 350円 650g)
「小語」とは、細井平洲自身が見聞きした君主から名もない人物まで、70人余の逸話が漢文で書きとめられた書物。小野重伃(おのしげよ)氏の研究により完成した、平洲研究の原典となる注釈本。

写真:細井平洲「小語」注釈本

販売窓口

社会教育課(市役所6階)、文化センター、上野公民館、中央図書館、平洲記念館

郵送の場合

本の代金+送料=金額を、必ず現金書留で下記のところへお送りください。

問い合わせ先・送り先

〒476-8601 東海市教育委員会 社会教育課
電話:052-603-2211・ファクス:052-604-9290

より良いウェブサイトにするために、ページのご感想をお聞かせください。

このページに問題点はありましたか?(複数回答可)

このページに関するお問い合わせ

教育委員会 平洲記念館
〒476-0003 愛知県東海市荒尾町蜂ケ尻67番地
電話番号:052-604-4141
ファクス番号:052-604-4141
お問い合わせは専用フォームをご利用ください。