平洲塾27-1「尾張藩名家老の話」

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ページ番号1004680  更新日 2023年2月20日

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尾張藩名家老の話

細井平洲先生は、地元の尾張藩徳川家の学問の指導者だったことがある。
八代藩主徳川宗勝〈むねかつ〉の時代に、竹腰正武〈たけこし・まさたけ〉という名家老がいた。子どもの時代に、平洲先生はこの竹腰家老に会ったことがある。城下町を駕籠〈かご〉ですすみながら、竹腰家老は駕籠の戸を開けて、道いく人びとにしきりに声をかけた。
「どうだ、元気にやっているか」
「かぜは治ったか」
「この間はケガをしていたようだが、もう大丈夫か」
などという。名古屋城のご家老が声をかけるのだから、通行人たちは恐縮した。しかし、竹腰家老には人間的な親しみをおぼえた。

平洲先生は竹腰家老について次のようにいっている。

《竹腰家老の性質はおだやかで、心はへりくだってつつしみ深く、身のこなしは静かで落ち着きがあった。政治家としては人の心の自然にのっとり、職務の遂行に当たっては細部に至るまで明瞭であることを尊重していた。五十年余も家老の職にあったので、藩の安全を守ることを自分の任務としきたのであったが、年老いてから病気ということで辞職しようとした。藩主の宗勝公はおどろいて竹腰家老の屋敷にいき、どうかつづけて政務をとってくれとお願いなさった。そこで竹腰家老は気を奮って政庁に復帰したのである。人びとはよろこんで互いに励まし合ったという。「さあ、早く新年の準備をしよう。われわれが敬愛する竹腰様が復帰されたのだからな」と。》

竹腰家老のリーダーシップについて、平洲先生は次のようなエピソードを書いておられる。

名古屋城内にはやる気のある若い武士がたくさんいた。自分たちが計画したことを直属上司に告げるが、直属上司は必ずしもいい顔をしない。「こんなことは先例がない」とか、「あまりひとりだけ突出しないほうがよい」などといって退けてしまう。
不満を持った若い武士たちは、竹腰家老のところにやってくる。そして、「うちの直属上司はやる気がなくてわたしの案をつぶしてしまいます。この案を実行すればお城のためになると思いますが、ご家老はどうお考えになりますか」と、自分の案を突きつける。
そんなとき、竹腰家老は決してムッとしたり、あるいは若者を叱ったりはしない。
「どれ、みせてみろ」と、若い武士の案を手にとってじっくりと読む。やがてニッコリ笑う。こういう。
「なかなかいい案だ。これが実行されればお城の仕事が充実できる。ところが、この一ヵ所がどうも気になる」そういって、若い武士が考えた案の一か所を指で示す。若い武士は覗きこむ。
「ご家老、どこが気がかりなのですか」
「ここだ。ここは、もう一度考え直してみよう。じっくり考えればもっといい案が出るはずだ。そのときは、直属上司にも相談してみろ。おまえのところの直属上司は経験が深い。この点についても、きっといい案を教えてくれるはずだ。もう一度戻って相談しなさい」
若い武士はちょっと不満げな表情をする。それは自分では、(うちの直属上司はぼんくらで、自分のいうことを理解してくれない)と、きめつけているからである。

そういう若い武士の気負いを竹腰家老はやんわりとなだめたのである。つまり竹腰家老は、《自分の直属上司をぼんくらだときめつけてはいけない。話しようによってはゆたかな経験を漏らしてくれるにちがいない。城というのは秩序を重んずる必要がある。直属上司をみかぎっていきなり家老に直結してはいけない》ということをソフトな方法で教えたのである。
若い武士は満ち足りないきもちを抱いたまま自分の席に戻っていった。

翌日またやってきた。顔が輝いている。
「またきたな、どうした」と、竹腰家老がきくと、若い武士はこういった。
「ご家老のご助言に従って、直属上司にこの部分を相談いたしました。直属上司は、ああそのことなら自分がかつてこういう経験をしたことがある、参考になると思うよ、といってここに書いたような方法を教えてくださいました。わたしは浅はかでした。直属上司はいい人です。経験もゆたかでいろいろなことを知っておられます。わたしの話し方が悪かったのです。反省しました。これもご家老のおかげです、ほんとうにありがとうございました」

竹腰家老は満足した。そして若い武士の肩を叩き、「よく理解してくれた。おまえは優秀だ。これからも尾張徳川家のために大いに頑張ってくれ」と、励ました。

竹腰家老の名家老としてのリーダーシップのエピソードはまだまだたくさんある。

本のご紹介

細井平洲「小語(しょうご)」注釈
平成7年発行 A5判 345頁 1冊 1,120円(別途送料1冊 350円 650g)
「小語」とは、細井平洲自身が見聞きした君主から名もない人物まで、70人余の逸話が漢文で書きとめられた書物。小野重伃(おのしげよ)氏の研究により完成した、平洲研究の原典となる注釈本。

写真:細井平洲「小語」注釈本

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