平洲塾21「米沢の助三郎の話」

Xでポスト
フェイスブックでシェア
ラインでシェア

ページ番号1004686  更新日 2023年2月20日

印刷大きな文字で印刷

牛にまなべ 米沢〈よねざわ〉の助三郎〈すけさぶろう>

あけましておめでとうございます。今年は子年ですが、今月は、来年の干支〈えと〉・牛が登場するお話し。もちろん、物語のベースは、『小語』からの引用です。
これは、米沢<よねざわ>での話だといいますから、細井平洲先生が名君・上杉鷹山〈ようざん〉の学師として米沢におもむいたときの経験だと思います。

鷹山は平洲先生のすすめに従って新しく学校をつくりました。「興譲館〈こうじょうかん〉」という名がつけられました。命名者はもちろん平洲先生です。興譲というのは、孔子〈こうし〉のいう「徳を興〈おこ〉す」という意味で、人間の基本的な心がまえをいうものです。つまり、「他人にはあくまでもやさしく思いやりをもって接する。また、他人のきもちになって自分の行動を考える」ということでしょう。
また先生は、興譲館の教育方針として、いわゆる"本校主義"をとらずに、"分校主義"をとりました。ですから米沢の城下町から遠い里や谷間の町に先生が出かけていき、庄屋さんの庭や、あるいはお寺の境内を借りて講義をおこないました。平洲先生はかつて両国橋のたもとで辻講釈をした経験があるので「どこでも教場になる」と考えていました。

そんなときに助三郎に出会いました。
助三郎は真面目な農民です。しかし、真面目すぎていつも年貢(税金)に追われていました。
一頭の牛を飼っていました。農耕に必要な大切な牛です。助三郎もいままでどれだけ世話になったかわかりません。しかしその牛がだんだん老いてきました。

牛といちばん仲のいいのが助三郎のこどもです。こどもは、まるで兄弟のように牛を可愛がり、いつも一緒にいました。夜も、牛小屋で寝るくらいです。
助三郎は呆れて、「まるで、おまえの兄弟のようだな」とからかいます。こどもはニコニコ笑って、「そうだよ、この牛はわたしの兄弟だよ」とうなずきます。

牛は、土を耕すときの力仕事に便利です。鋤〈すき〉(土を耕す工具)を引いて、土を次々と掘り起こします。大変な力がいりますから、助三郎にとってやはり牛の存在はありがたいものでした。
このごろでは、こどもが手伝うようになりました。でも、こどもは小さくて、後ろから牛を追うことはできません。それをみると牛は足を折って腹ばいになりこどもを背中に乗せます。こどもは竹の棒でそっと牛の尻を叩きながら、ハイヨハイヨといって、鋤を引かせます。そんな光景を助三郎は温かくみまもっていました。

しかし、その年の年貢が払えません。助三郎はこどもを背に乗せた牛をみながらしみじみと思いました。
(あの牛も年を取った。今年は、あの牛を売って年貢を納めるようにしよう)
そう思うと、助三郎の心は涙で湿ります。牛が可哀相だからです。第一、牛を兄弟のように可愛がっているこどもがいちばん悲しがるでしょう。しかし、背に腹はかえられません。年貢を納める期日はどんどん迫ってきました。
あしたがいよいよその期限だという日に、こどもと牛は朝からどこかへ出かけてしまいました。
「いったいどこにいったのだろう?」
といぶかしんでいると、近所の人が助三郎のところに駈けこんできました。こういいました。
「助三郎さん、大変だよ! おたくのこどもが川に落ちかかった」
「いったいどうしたんですか」
「川に架かった橋の上で下をみていたんだね。ところが橋の欄干〈らんかん〉が古くて腐〈くさ〉っていたために、突然折れたんだ」
「それで息子は川に落ちましたか」
「いや、そのときね、一緒にいた牛がこどもの襟〈えり〉をくわえて、橋のほうへ引き戻したよ。おかげで、おたくのお子さんは牛に助けられた」
「えーっ、そうですか」
助三郎は考えこみました。

そんなところへ、牛がこどもを背に乗せてゆっくりと歩いて戻ってきました。
助三郎は思わず駈け寄りました。そしてこどもを牛の背から降ろすと牛にいいました。
「ありがとうよ、おまえはこどもの生命〈いのち〉の恩人だ」
牛は何もいわずによだれをたらしました。助三郎は決意しました。
「この牛は絶対に売れない。年貢は、なんとかして自分が工面をして納めよう」
牛とこどもの愛情深いありさまをみていて、助三郎は、「こどもにはこの牛が絶対に必要だ」と思ったのです。

美しい話ですね。
平洲先生は、どこへいってもこういう美しい話を発見するのは、平洲先生の心がやさしさと思いやりに満ちていたからでしょう。つまり、「譲〈じょう〉の精神」でいっぱいだったのです。

より良いウェブサイトにするために、ページのご感想をお聞かせください。

このページに問題点はありましたか?(複数回答可)

このページに関するお問い合わせ

教育委員会 平洲記念館
〒476-0003 愛知県東海市荒尾町蜂ケ尻67番地
電話番号:052-604-4141
ファクス番号:052-604-4141
お問い合わせは専用フォームをご利用ください。